特色として、かなり大きな腫瘍がテント下・右小脳半球部に発症し、前医にて外科的摘出を行った。しかし、2か月で上左図のごとくほぼ元通りの大きさまで再発してしまった。つまり、脳転移の中でも極めて悪性度が高いものと判断した。私への紹介時点で長径はすでに45ミリあり、再手術の希望がなかったことから、寡分割照射による治療必要と判断した。右小脳半球圧迫度強く、脳幹(延髄)に近接しているため、「高精度・高収束・高線量率」を誇るZAP-Xによるmicro-SRT(顕微鏡レベルの詳細SRT)がベストであると考え、女子医大から宇都宮脳脊髄センターシンフォニー病院へ依頼した。ZAP-X治療計画はまだprematureであると言わざるを得ず、基本は誰でも使える「自動計算システム(Inverse plan)」での治療計画が主で行われている。
しかし私はまず使わない。なぜなら、周囲正常組織への過照射の可能性もそうだが、一番は内部線量の均一化がシステム上出来ず、腫瘍成長制御のための納得の行く照射計画がまだ作れない。そこで私は開設以来3年間、一環としてForward Plan(ガンマナイフのようにすべて手と目で行うmanual settingで全てのアイソセンターを配置し照射形状を作成)にてこだわりの治療計画を実践してきた。
本症例における脳腫瘍は術後3か月でほぼ消失、6か月で完全消失。しかも危惧していた放射車線傷害による脳浮腫が一切見られていない。実は余命1か月というフレコミで、私の元に最初いらしたが、もうすでに1年経過し元気はつらつとされている。
転移性脳腫瘍に対する治療計画は、以後他項で解説している良性疾患に比べると、講じるテクニックはさほどないと言える。一方で、患者の本音を傾聴し、共に患者人生に伴走すべく、「想いを形にする」治療であると考えている。定位放射線治療とは「絶望の淵から希望の扉へ誘える」治療であり、そこが果たされて初めて「至高の治療計画」となるのだと確信している。「木綿のハンカチーフ」で有名な歌手・太田裕美さんも、オフィシャルHPにてプレスリリースし定位放射線治療の実感を伝えて下さっている。
https://www.sonymusic.co.jp/artist/HiromiOta/info/562892