
. 傍海綿静脈洞-後頭蓋窩髄膜腫症例
Gd造影T1 WI axial view
80歳代高齢髄膜腫症例。頭痛精査で偶然見つかった(上図)。腫瘍は脳幹を圧迫し、テントに沿い、上錐体静脈洞から海綿静脈洞、そしてメッケル腔や内耳道内へと広く進展いる様子。とくに海綿静脈洞内腫瘍有無とメッケル腔内腫瘍との関係鑑別が困難、かつBasilar venous plexus(脳底静脈叢)の開存有無が不詳である。
Gd造影CISS/FIESTA axial view
そして上図のごとく、本症例に対してGd enhanced CISS/FIESTA axial viewを撮像し、海綿静脈洞システムおよび腫瘍自体がtransparentとなるべく、微小解剖学的識別目的で施行した。そして、腫瘍はやはりテント(主に上錐体静脈洞内側壁)発生であることが分かり、テント上錐体静脈洞内側壁より後頭蓋窩へ成長進展したものがpetroclival junctionに達し、その後に後方よりメッケル腔内に進展していることが判明した。よって、メッケル腔底において、前方下方に髄液陰影を見ることができた。一方で、テント内側壁より内側、つまり上錐体静脈洞内へ成長進展を認めたが、幸い海綿静脈洞内への進展には至らず、よってDorello’s canal および Basilar venous plexusへの腫瘍進展も存在しなかった。本腫瘍では往々にして、錐体静脈洞外側壁より中頭蓋窩側へ成長進展していくタイプもあるが、本症例ではそれは認めなかった。
左から:
動眼神経
/
外転神経
/
三叉神経
/
聴神経・顔面神経
その後、実際に治療計画を立てる際に、腫瘍および周囲正常脳神経との微小解剖を把握する必要あり、治療計画コンピュータ内にて3次元的に正確に把握すべく努力した。結果、上図のように、腫瘍と動眼・外転・三叉・聴・顔面神経をそれぞれ描出に成功した。
治療計画:上段Gd造影T1WI、下段Gd造影CISS/FESITA
によるcoronal-axial-sagittal view
治療計画に関しては上図のごとく、「腫瘍のへそ」とも称するbasal attachmentより優先的にアイソセンター(球状照射野)を置いていく。なぜならば、最終的に同部における80%高線量域(20Gy相当=血管内皮細胞腔を閉塞し得る線量)を広くもたらすことで、栄養血管を遮断し、将来的な腫瘍壊死へと導くためである。そして最終的に下図のごとく、腫瘍をしっかりと覆い、かつ各アイソセンターは腫瘍外にはみ出さず(=将来手術となったときに炎症反応で癒着させないため)、basal attachmentを中心に80%高線量域を広域に持たせ、かつ周囲脳神経への過照射を一切せずに治療計画を施した。最終的に処方線量としては、大きさがあるので辺縁線量11Gy(@50%isodose)として治療を行った。平均線量的には従来の辺縁線量12Gy相当以上と考えている。
今回の症例は解剖学的理解に難易度はあれども、腫瘍局在としてはone way extensionなので治療計画としてはシンプルであった。もし、本症例類似発展例の場合、さらに海綿静脈洞内病変、中頭蓋窩病変、そして視交叉近傍のトルコ鞍上槽病変などが同時局在している場合には、私たちはすべて囲んで寡分割照射(SRT)で行うという放射線治療は選択せず、それぞれの箇所を一定時間を置きながら高線量一括照射(SRS)による箇所分割戦略を取っている。これにより、「腫瘍壊死」と「脳神経麻痺防御」を高率にもたらすことができると信じている。
治療計画完成:Gd造影CISS/FIESTA axial view
に於いて、黄色が辺縁線量域、緑が高線量域

. 錐体骨先端部非典型的髄膜腫症例
Gd造影T1 WI axial view
40歳代顔面しびれにて発症の頭蓋底髄膜腫症例。他大学病院にて外科的摘出を受け、ほぼ全摘出完遂。しかし、病理組織は悪性髄膜腫(Mib-1 >20%)とのこと、慎重にフォローしていたところ、術後3か月でほぼ元通りの大きさまで再発。顔面麻痺には至っていないものの、三叉神経障害に起因する顔面しびれは徐々に悪化してきていた。そこで、ガンマナイフへ急遽の紹介があった。その後、Gd造影CISS/FIESTAを施行(下図)
Gd造影CISS/FIESTA axial view + Bone CT axial view のfusion image
腫瘍は錐体骨硬膜発生であり、メッケル腔および内耳道内へ進展し、比較的en plaqueに近いround shapeを呈し、橋(脳幹)を中等度圧迫(しかし、脳浮腫は幸い無し)。同時に外転神経へは接するのみではあったが、顔面神経は比較的強く後下方へ圧迫され、三叉神経は前橋槽内では強く内側に圧迫されながらメッケル腔内では完全に腫瘍内に埋没された状況を呈していた。腫瘍浸潤性の性格を反映していると思われた。ガンマプラン(治療計画用コンピュータ)にて、そのまま治療計画を試みることにした。
治療計画1:Gd造影CISS/FIESTA axial view + Bone CT axial view のfusion image
通常の典型的髄膜腫であれば、上図(治療計画1)のごとく、腫瘍をconformalかつselectiveに照射計画を立てることが可能。従来のピン固定によるSRSで、処方線量は12Gyとして行うので、この場合は顔面神経も脳幹も合併症を出さずにして治療完遂は可能なレベルであった。しかし、本腫瘍は非典型的・悪性髄膜腫であるため、SRSで行うならば処方線量は最低18Gyが必要となり、この計画では顔面神経麻痺や脳幹症状の可能性が高くなってしまう。一方で、最新機アイコンでのSRTを選択した場合、われわれが推奨している3分割(総計辺縁線量27Gy)においても、機械的精度(1.5-3.0mm)から腫瘍周囲のvital structureへの過照射の可能性は捨てきれない。
治療計画2:上段Gd造影CISS/FESITA、
下段Gd造影T1WIによるcoronal-axial-sagittal view
上図(治療計画2)のようなピン固定SRSにおいて、処方線量18Gyとして治療計画を実施。結果、脳幹および顔面神経への耐容線量(それぞれ14Gy)を考慮せざるを得ない状況から、腫瘍に対する「かけ残し」部分が顕著に目立つ結果となってしまい、ガンマナイフでの加療は難しいと判断せざるを得なかった。そこで、この矛盾を解決すべく「micro-SRS & micro-SRT」を誇るZAP-Xへ紹介することに至った。
治療計画3: Gd造影CISS/FESITAによる
axial-coronal- sagittal view
上図(治療計画3)のごとく、ZAP-XにおけるTPS(治療計画システム)上、処方線量域(黄色)と脳幹・顔面神経耐容線量域(腫瘍外側の緑色)がピタリと重なるくらいにかなりsharpに、かつ高線量域(腫瘍内部の緑色)をbasal attachmentを中心に広域にもたらすことに計画上成功した。処方線量として27Gy(50%isodose)、3分割のmicro-SRTにて治療を行った
現在治療後二年経過している。治療後経緯としては半年後より著明な腫瘍縮小と前橋槽箇所の腫瘍に壊死性変化を認めた。治療後1年時にはさらに縮小し、面積比として1/4程度まで縮小。脳幹浮腫(脳幹障害)や顔面麻痺は一切起こらなかった。そして、あまりガンマナイフでは見られない、顔面しびれ(=三叉神経障害)が改善し、2年経った現在はで全く消失したとのこと!腫瘍サイズも著明縮小したままとなっている。まさにガンマナイフではなく、ZAP-Xこそが絶対適応となる症例であった。