林 基弘の
「至高の定位放射線治療を目指して」
Cavernous
sinus lesions
海綿静脈洞内病変
準備&コンセプト
海綿静脈洞内病変および傍海綿静脈洞病変に対しては、同静脈洞やメッケル腔などの3次元的な解剖学的位置把握がまず重要となる。さらに、それぞれの腫瘍成長特性を勘案し、各脳神経の解剖学的位置把握もしくは推測が重要であり、「腫瘍成長年表」を意識した4次元(3次元+時間)的な考察が至高の治療計画に求められる。

私たちは通常、骨条件thin slices CT及び、MRI条件3sequences(T2SE coronal 2.0 mm slices/ gadolinium(Gd)enhanced T1 axial1.0mm slices、Gd enhanced CISS/FIESTA axial 0.5-1.0mm slices)を全症例に対してルーチンで撮像。その後、治療計画用コンピュータにインストールし、各MRI画像と骨条件CTの合成画像を作成し準備する。
画像解剖:左右図共に上段/plain FIESTA 0.5mm axial slices、下段/Gd enhanced FIESTA 0.5mm axial slices。左図/赤矢印は動眼神経走行、右図/赤矢印は外転神経走行を示している
海綿静脈洞内外病変治療計画への準備として、各脳神経の解剖学的特徴をそれぞれ下記に示す。

1)動眼神経:中脳大脳脚内側より起始し、脳層内を下方に向かい走行する。海綿静脈洞へはPorus Oculomotorius(動眼神経孔)より入口する。同部はメッケル腔と同様の固有硬膜構造を呈しており、漏斗状に海綿静脈洞外側後上方に位置している。その後、海綿静脈洞内において外側壁に接しながら前床突起下を走行し上眼窩裂へと達している。画像上そこまでの確認が可能となっている。

2)外転神経:橋延髄移行部より起始し、脳層内を長い距離上方へ走行している。Basilar venous plexus(脳底静脈叢)上の固有硬膜を同神経が貫通し、固有硬膜を神経に纏(まと)いながらBasilar venous plexus~Dollero’s canal(ドレロ管)に沿い上行する。同神経はDorello’s canalにて角度を前方に移し、メッケル腔内壁に沿って走行。次いで内頚動脈C4部外膜に達した後、纏っていた固有硬膜が同外膜に吸収され、以後同神経のみが海綿静脈洞外側壁に沿う形で上眼窩裂に達する。さらに、Annulus of Chin(腱鞘輪)の内部、そして視神経外側(眼動脈に一部近接)を走行している。

3)その他脳神経:滑車神経・三叉神経第一枝、第二枝も解剖学的に海綿静脈洞内を走行しているが、残念ながら現状の解像度MRIでは描出は不可能となっている。

実際

&ピットホール
海綿静脈洞内に発生する
つの腫瘍における治療戦略
海綿静脈洞内に発生する各腫瘍の成長特性と上記画像解剖に従って、まず腫瘍被膜外への過照射はせず、高線量域(80% isodose area)を広く持たせ、各脳神経へはアイソセンター(球状照射野)で配置を回避し、内頚動脈へは可能であれば敢えて高線量域(80% isodose area)にてカバーしないように最大限工夫して行えることが、私たちにとっての至高の治療計画である。
下垂体が海綿静脈洞内側やや前方に位置しているため、同部より外側後方への進展もしくは浸潤などにより成長していく。その中でも、後上方進展のタイプは動眼神経を、一方で後下方進展のタイプは外転神経の過照射に対して気をつけねばならない。基本は進展成長だが、クッシング病や悪性度ある腫瘍では浸潤性に成長していく。Superior Petorosal Sinus(SPS/上錐体静脈洞)入口部における腫瘍の形状にて簡単に判断がつく。
海綿静脈洞内進展性下垂体腺腫治療計画:
左/後上方進展例、右/後下方進展例
海綿静脈洞壁硬膜のいずれかから発生し、海綿静脈洞内外それぞれに進展成長していくものもある。例えば海綿静脈洞外側壁硬膜より発生すれば、内頚動脈は内側偏移することがあり、一方で内側壁硬膜より発生すれば外側偏移していく傾向にある。T2 WIにてかなりのhigher intensityを来す場合は、angiomatous meningiomaなのか、次に示す海綿状血管腫なのか鑑別を要する。
本腫瘍は海綿静脈洞そのものが腫瘍化したものであるため、基本的には髄膜腫のように内頚動脈含めて重要構造物の偏移を認めないのが特徴となっている。外科手術による組織診断は、術中出血がひどく同部の摘出術は困難を極め、かつ脳神経麻痺を来す可能性が高い。一方で、SRSは同血管腫にはかなり効果的で、ほとんどの症例で著明縮小、かつ脳神経麻痺改善例も存在していることからかなり有用である。だからこそ、画像鑑別診断を熟知する必要があると考えている。
本腫瘍は海綿静脈洞内というよりは、傍海綿静脈洞病変として見ることの方が多く鑑別が必要となる。本腫瘍も海綿状血管腫同様かなり術中出血が強いことで知られている。また、メッケル腔内腫瘍として三叉神経鞘腫と見間違えることもしばしばあり、例えばForamen Lacerum(破裂孔)硬膜発生の同腫瘍は、メッケル腔内において前下方および外側下方にcerebrospinal fluid(CSF/脳脊髄液)の介在を見ることがあり良き鑑別となっている。
メッケル腔内血管周囲腫症例:腫瘍本体の
内部線量をかなり均一化して照射
外科手術・ガンマナイフ後の経時的
変化:かなり早期に縮小している
頻度としてはかなり少ないが鑑別診断必要な腫瘍となる。とくに外転神経鞘腫の場合は2つのタイプに分かれる:A)海綿静脈洞後方~前橋槽へ突出するタイプ、そしてB)海綿静脈洞前方~眼窩内進展するタイプ。上記でも示したように、外転神経の解剖学的特徴から、内頚動脈C4部外膜部が境となって、その前方と後方で腫瘍の進展が遮られていると推測している。動眼神経鞘腫は、髄膜腫や海綿状血管腫との鑑別がしばしば困難であり、SRS後の経時的変化にて初めて鑑別診断がつくことがしばしばある:髄膜腫であればほぼサイズ・intensity・神経症状共に不変、海綿状血管腫であれば著明縮小・神経症状改善の可能性あり、そして神経鞘腫であれば一過性膨大(中心部造影決失像)・複視など神経症状悪化の可能性あり。
海綿静脈洞〜眼窩における微小解剖:左/腱鞘輪部における外転神経鞘腫(紫)と周囲
正常構造物、右/ドレロ管における外転神経鞘腫の2タイプ(緑:前方型/ピンク:後方型)。
(図の出典:手術のための脳局所解剖学/中外医学社/馬場元毅先生より)
あわせて読みたい「症例」
1.転移性脳腫瘍
2.髄膜腫
3.聴神経腫瘍
5.脳動静脈奇形
6.三叉神経痛