林 基弘の
「至高の定位放射線治療を目指して」
Acoustic
neuroma
聴神経腫瘍
準備&コンセプト
聴神経は聴力に関連する蝸牛神経と平衡機能に関連する前庭神経(内耳道底にて上・下前庭神経の2つに分かれる)により構成されている。聴神経腫瘍は、病理学的に前庭神経鞘腫(vestibular schwannoma)が正式名となっており、残存蝸牛神経がどの程度腫瘍によりダメージを受けているか?が聴力温存の鍵となると私たちは考えている。よって、より高い段階である、有効聴力温存を目指す定位放射線手術(SRS)治療計画に於いて、内耳道底における腫瘍と蝸牛神経の状況を把握することが最重要であると認識している。このことにより、NF2(神経線維腫症2型)患者治療において、私たちは患者の願い「音の聞こえる世界」を目指して、有効聴力側腫瘍より優先的にSRSを行い続けている。

私たちは通常、骨条件thin slices CT及び、MRI条件3sequences(gadolinium(Gd)enhanced T1 axial1.0mm slices、CISS/FIESTA axial 0.5-1.0mm slices with/without Gd enhancementの2種)を全症例に対してルーチンで撮像。その後、治療計画用コンピュータにインストールし、各MRI画像・骨条件CT合成画像を作成し準備する。

これらにより、造影CISS/FIESTAにより腫瘍のtransparent効果が惹起され、周囲脳神経(とくに顔面神経)の解剖学的把握。及び、単純CISS/FIESTAにより内耳道底における腫瘍の進展度把握ができ、蝸牛神経の位置推定に役立っている。
右聴神経腫瘍(Koos3)におけるCISS/FIESTA axial 0.5mm slices(上段/Gd造影なし、下段/Gd造影あり):下段にて腫瘍がtransparentとなり、前方に位置する顔面神経(緑)が描出されている。
治療計画用コンピュータにおける3D画像:腫瘍と各脳神経との解剖学的位置関係(左/Koos 3腫瘍[左図/緑:顔面神経、青:聴神経]、中/Koos 1腫瘍と、右/内耳道におけるシェーマ(青・顔面神経(VII)、シアン・聴神経、紫・蝸牛神経(Coch)、赤・上前庭神経(SVN)、橙・下前庭神経(IVN))が詳細に描出されている。
骨条件CT(左 / axial, 中 / coronal, 右 / sagittal view)と内耳道シェーマ:上段/上(VII及びSVN)と下(Coch及びIVN)の神経を分ける水平板(Horizontal bar)。下段/顔面神経(VII)と上前庭神経(SVN)を分けるBill’s bar。それぞれを確認し、細かな治療計画に活かしている。

実際

&ピットホール
至高の聴神経腫瘍
SRS治療で重視すべき
私たちが考える至高の聴神経腫瘍SRS治療目標は、1)腫瘍成長制御のみならず、腫瘍壊死による縮小、2)顔面神経温存、そして3)有効聴力温存の以上3点である。

本腫瘍に対する治療計画前に必ず行うことは、まず「4次元的把握(=腫瘍の成長年表作成)」につきる。腫瘍は聴神経のある一か所から発生するはずなので、その長軸の中間点がそれに当たるとまず私たちは想定している。そして以下の項目に分けて細かく術前状況を確認しながら具体的に治療計画のための準備を行っている。
聴神経腫瘍に対する治療計画コンセプト
腫瘍そのものの形状についても確認が必要。内耳道内(soft bone箇所)を広範に破壊して成長していくタイプか?そうではないのか?また、内耳道外進展し脳幹到達時に、脳幹をシンプルに圧迫していくタイプか?もしくは横に広がりあまり脳幹圧迫を来さないタイプなのか?などで腫瘍の硬さが推測できる。また、造影CISS/FIESTA画像にて、lower intensity lesionsが散在性に認められる場合、私たちはそれを“vascular tangle”と称し、腫瘍内栄養血管の豊富さを示している。ときには脳動静脈奇形のようにかなり血管血液に富んだ腫瘍もあるので注意を要する。
腫瘍発生地点が内耳道底側に近ければ、Koos 1のような小型腫瘍であっても強い蝸牛神経障害により難聴で発症し、一方でそれが内耳道入口部もしくは脳槽内側であればKoos 4のような大型腫瘍でも内耳道底における蝸牛神経損傷がさほどでないため意外に有効聴力維持症例が存在している。これらの確認作業は内耳道底における蝸牛神経保護要否の観点で、アイソセンター(球状照射野)の是非を決定づけるものになる。
主に単純CISS/FIESTA画像のcoronal viewにて、tumor tailとhorizontal barとの位置関係にて、上前庭神経鞘由来なのか?下前庭神経鞘由来なのか?大方診断可能となっている。上前庭神経鞘腫の場合は下図のごとく、horizontal barより下に位置するinferior vestibular grooveにcerebrospinal fluid(CSF/脳脊髄液)が介在することが確認でき、結果として顔面神経はシンプルに前方に偏移圧迫されていることがわかる。一方で、下前庭神経鞘腫の場合は下図のごとく、tumor tailがhorizontal barより下に位置するため、inferior vestibular grooveにおいてCSFの介在がなく、結果として顔面神経は前上方に偏移圧迫されていることがわかる。
左図: 上前庭神経鞘腫に対する治療計画
右図: 下前庭神経鞘腫に対する治療計画
やや大型の聴神経腫瘍(Koos 3)
症例
左図: 聴神経腫瘍Koos 3治療計画
右図: 骨条件CTにての最終チェック
右顔面知覚障害にて発症の聴神経腫瘍患者。顔面麻痺無く、聴力は軽度障害(Gardner & Robertson分類2)。高齢のため手術拒否にて、ガンマナイフSRS希望。腫瘍は内耳道底に達するもまだCSFの介在あり、coronal viewにて腫瘍発生神経鞘は不詳。内耳道内(soft bone箇所)における骨破壊は中等度あるも、腫瘍のproportionは脳槽内に多く存在。下図左のように、4ミリおよび8ミリ径のアイソセンターを腫瘍被膜内、とくに顔面神経が走行している前方と脳幹に接している箇所においては一つとしてはみ出さぬよう配置し、腫瘍全体を50% isodose lineでカバーした(=将来的な腫瘍周囲炎症による癒着防止)。上図左のごとく、腫瘍内線量勾配を均一化させ、結果として高線量域(80% isodose area)を腫瘍内に広く持たせて照射エネルギー量の向上に寄与(=将来的な腫瘍壊死と著明縮小効果を惹起)。その際、一過性膨大時に顔面および聴神経へ支障を来さないために、内耳道内箇所に関しては敢えて高線量域を外すよう工夫している(=顔面神経・聴神経の一過的ダメージ回避)。最終的に、上図右における骨条件CT axial slicesにて50% isodose line位置が想定し得る重要構造物を含まぬよう確認して治療計画を終えている(=治療精度チェック)。辺縁線量として12Gyを処方した。
左図: 私たちの治療計画
右図: とある治療計画の一例
ガンマナイフによる治療計画の実際として、人の手で行う場合のみならず、例え昨今のインヴァースプラン(自動照射計画作成ソフト)を用いたとしても実は皆すべて同じではない。上図は共に腫瘍をきちんと辺縁線量域(黄色/50%isodose line)で囲めており、一見治療計画的にはどちらも同じように見える。しかし、右側治療計画においては、1)各アイソセンターが腫瘍外にはみ出している(=将来的な腫瘍周囲炎症による癒着促進)、2)腫瘍内線量勾配が不均一となり照射エネルギー量不十分となっている(=将来的な腫瘍壊死と著明縮小効果の可能性が低い)、3)各アイソセンターが顔面神経・蝸牛神経などに当たっている(=将来的な照射ダメージを惹起)などから、将来的な治療予後、そして万一手術が必要となった時の備えとしてこの治療計画では安全性と有効性が担保仕切れず、至高の定位放射線治療とは決して言うことはできない。
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